日本初の重度障害を抱えた参議院議員にインタビュー

トマスローガンが電動車椅子にのる木村英子氏の左にこちらを向いて座っている。反対の右側には著者のやながわけんじが座っている。

木村英子氏は初めての障害を持った日本の参議院議員です。日本の国会に馴染みがない方の為に少し背景をご紹介したいと思います。日本の国会は二院制です。下院は衆議院で、上院は参議院です。 

木村議員は、生後8カ月の時、歩行器ごと自宅玄関に転げ落ち、頸椎(けいつい)を損傷しました。その後、脳性麻痺と診断され、移動手段の電動車椅子を操作する右手以外、体はほとんど動きません。

長年にわたり、障がい者運動に携わり、2019年にれいわ新撰組から参議院議員選挙に立候補し、当選しました。2020年には党の副代表に就任しています。

Q.木村議員が立法議員としてどの様なことに取り組まれているかお教えいただけますか?

国会では、国土交通委員会に所属し、重度しょうがい当事者の立場から質疑を行い、建物や交通機関のバリアフリーを推進しています。

例えば、新幹線の車椅子スペースに関して、私の体験談も含めて、撮影した車内の写真を見せながら国土交通大臣に説明をすることで、新幹線の車いすスペースが2席から6席に増えるなどの成果がありました。

障がい者が家や施設を出て自立生活をする上で、移動の自由が確保されることは非常に重要だと考えています。当事者のために活動するとともに、しょうがいしゃが生きられる社会は、誰にとっても生きやすい社会であると信じ、日々それを実現するために闘っています。

Q.重度障がい者が議員になることで、国会に変化はありましたか?

スロープやエレベーター、車いす用トイレが設置されるなどの合理的な配慮がなされました。

Q.普段、書類を書いたり情報を取り入れたりするにはどんな方法を使っていますか?

アシスタント(パーソナルアシスタント)に口で伝えてパソコンに打ち込んだり、紙に書いてもらいます。でも、書いてもらう内容をゆっくり考えているとアシスタント(パーソナルアシスタント)を待たせることになるので、どうしても気を遣ってしまいます。

また、スマホの音声認識を使ったり、ニュースを読み上げさせることもありますが、夜中など周りが静かな時には使いづらいです。声を出しても周りに聞こえることなく、音声入力ができる技術があったらいいなと思います。

Q. 木村議員が他の議員やスタッフと仕事をしてきた感想はどうですか?

健常者と障がい者は分けられた環境で育っているので、障がい者と触れ合った経験が殆ど無い国会議員が多いです。フランクなコミュニケーションが取れず、お互い構えてしまいます。相手もどうして良いかわからず、私ではなく秘書や介護者(パーソナルアシスタンス)に対して話してしまう様なこともあります。

健常者と障がい者がお互いのことをもっと知るべきだと思っています。しかし、障がい当事者が社会に出られるような環境・制度が整っていないのが現状です。私の使っている重度訪問介護制度は、就労就学、余暇活動などには使えません。主に家の中でのお風呂やトイレにしか認められておらず、労働をするなと言われているようなものです。それを変えない限りは、障がい者が社会参加したり、自立した生活をできるようにはなりません。私はこの制度を是非変えたいと思っています。

著者のやながわけんじが、ノートパソコンの前に座り、右の電動車椅子に乗った木村英子氏の方を向いている。他には三人が2人の後ろにいる。

Q. なぜそのような制度になっているのですか?

そもそも障がい者が社会の一員として価値を認められておらず、社会に負担をかける存在としてしか見られていない事が一因として挙げられると思います。なので、就労することは想定されていません。まだまだ障がい者の人権が保証されていないのが現実です。障がい者も社会に貢献したいと思っているのに環境が整っておらず、就労の機会が奪われています。

また、介護を家族だけに負わせ、社会の課題としてとらえず、障害者を受け入れる社会構造にはなっていないため、社会に出ていくことができず、障がい者と健常者がお互いを知る機会がとても少なく、共に生きていける環境ではありません。

社会の中で障害者と健常者が分けられ、障害者の問題が隠されていることで、法律や制度も中々変わらないという悪循環が起きています。

障害者が健常者と同じように社会参加して、社会の一員として行政で法律や制度作りに携わることができれば、共に生きていける社会に近づけると思います。そのためにも、あらゆる場面で利用できる介護制度の実現は、私が議員として一番成し遂げたいことです。

 

Q. 政府や地方自治体から発信される情報を、さまざまな障がいを持った方々はどのように受け取っているのでしょうか?

各省庁から出される情報については、障害者に対して情報を発信するという発想が最近になって意識されるようになった段階で、まだまだ十分に情報のアクセシビリティが進んでいないのが現状です。最近になって、情報保障として、国会のインターネット中継に手話通訳がついたり、テレビでも字幕を表示できたり、そういう合理的配慮が少しずつ増えてはきました。

しかし、個人としてほしい情報をウェブ上でスムーズに取り入れるには、様々な障害に合わせたより多くのIT機器やアプリの開発が必要になってくると思います。さらに、情報アクセスに必要な配慮も障害の程度によって違います。例えば、軽度の障害者であれば、手が使えてパソコンを操作したりでき、比較的情報を得やすいです。

重度で手も動かなかったり、言語障害がある場合、情報を得るために、他者の手を借りなければならないので、より優れたシステムが必要だと思います。究極は頭で考えたことがそのまま文字化されたり、考えただけで情報をスムーズに取り入れられたりといった感じです。こうした技術開発には、障害当事者が直接関わって、障害者と健常者の両方の視点を組み合わせて開発していく必要があると思います。

国として情報のアクセシビリティを進めていくには、政府が積極的に様々な障害者に対して情報を発信していこうという姿勢を示していくことが最も必要です。そこに近づけていくためにも、差別解消や障害者の人権に対する政策を国に働きかけていくことが重要だと考えています。そのうえで、それぞれの障がいに応じたわかりやすい情報の発信方法を模索していく必要があると思います。

 

Q. 現状では、政府が発信するものに関しても、アクセシビリティを確保しなければならないという義務がないということですか? 

障害者差別解消法では、情報アクセシビリティの向上が基本方針に挙げられているものの、国でも民間でも努力義務にとどまっています。ですから、政府が発信する情報も、漢字にルビをふる程度です。

ウェブサイトでも、書類でも、昔から障がい者には読めない・わからないものが多く、改善を訴えてきていますが、昔からあまり変わっていません。そもそも障害者の人権に対する考え方がアメリカよりは遅れていると思います。国は国民にとって必要な情報を発信する義務がありますが、その中に障害者が入っていないように私は思います。障害者の人権が保障されることが国の発展にとって必要な課題であるということを国が認識することが大事です。そうでないと、すべての面、そして情報のアクセシビリティについても政策が進まないと思います。

まずは国でも民間でも、情報のアクセシビリティが義務化されるような法整備が必要です。それには、この課題に限りませんが、障害当事者の議員がもっと増えなければいけないと思います。また、もっと障害者に合わせたわかりやすい情報発信の方法を提案できる専門家がいればいいのに、と思います。

Q. 木村議員は障がい者の自立に向けた活動は他に何かされていますか?

施設や親元ではなく、地域で自立生活を送りたいという希望を持つ障害者のサポートをするために、1994年に東京の多摩市で自立ステーションつばさを立ち上げました。これまでに15名の障害者がつばさから地域へ巣立っていき、自分の住みたい街で、自分らしく自立生活を送っています。

現在は私の次の世代にバトンを渡し、自立を目指す若者たちへのサポートを続けており、これからも障害者が健常者と同じように地域で生きていける社会を目指して活動していきたいと思っています。また、障がい者が家や施設から地域に出ていく自立の過程を描いた演劇の脚本を書いたこともあります。それを演じるために日本全国を回ったりしていました。

ここ20年ほどは障がいが悪化し、そのグループには所属していませんが、今でもたまに出演しています。その演劇は以下を含むいろんな方の体験談を劇にしました。

  • 自殺未遂をして障がいになった方
  • 海で遊んでいる時に脊椎損傷になった方
  • 生まれつき施設に入れられて虐待をうけた方
  • 生理の始末が大変だから子宮を摘出された方

私は体調不良で行けませんでしたが、20年以上前にNYCの障がい者施設で上演されました。その施設には20年ぶりに外部の人に出会ったという人がいたらしく、非常に辛い気持ちになりました。重度障がい者が地域に出ていけないという問題はアメリカにもあるのだと感じました。

Q. 木村議員は何かオンライン上で出来ることのアイデアがあったりしますか?

「街中のいろんなお店を回って、どんなバリアがあるかをまとめて発信する」なんて企画をやってみたいですね。ネット上のグルメサイトには、料理の味や店内の雰囲気などさまざまな情報が載っていますが、段差の有無などのバリアフリーの情報はほとんど載っていません。たとえば、障がい者用トイレや点字メニュー、障害者に合わせた食器などの自助具が備わっているかなどの情報がわかるウェブサイトやアプリがあるといいですね。

健常者でも歳をとれば視力や体力が落ち、車椅子が必要になったり、点字ブロックなどのバリアフリーが必要になるわけで、多様な障害に合わせてアクセシビリティを向上させることで、誰もが情報を得やすい環境を作れると思います。

Q. 木村議員の活動や、日本における障がい者コミュニティに対して、外国人の立場から何かできることはありますか?

いろんな人々とお話をして、お友達になりたいです。人種や障がいを問わず、いろんな人々に出会えるコミュニティが欲しいですね。積極的に障がい者を知ろうとする人がどんどん増えて行って欲しいと思っています。そういった架け橋を作るプラットフォームがあれば嬉しいです。

実は、10年くらい前にMixiを通じてボランティアを募集したけど全然集まらなかったんです。外国の人々にもヒットしなかった。障がい者、と言うと重たいイメージがあるのですが、障がい者と友達になろうというもっと気軽な感覚で接してもらえる様な、何か情報発信ができればと思いますね。

トマスローガンがテーブルの前に座り、電動車椅子に乗った木村英子氏が向かい側にいる。木村英子氏の両脇にアシスタントと秘書が座っている

Kenji Yanagawa
Accessibility Consultant and Business Manager in Japan | Kyoto
Business Manager for Equal Entry's operations in Japan and work to evangelize the company, establish new business partnerships, and create success.