「しょうがいしゃ」の3つの表記方法。どれ使えばいい??

代替テキスト: 「しょうがい」の3つの表記方法 アマンダ奈瑠美藤井によるイラスト

「しょうがいしゃ」という言葉を文字にするとき、昨今では主に三つの書き方がみられます。「障害者」が一般的でしたが、近年では「障碍者」や「障がい者」を好む人も多いようです。なぜ人によって異なる表記を好むのか、表記を変えることにどういった意味があるのか、という事についてみていきたいと思います。どうやら、障がいには「医療モデル」と「社会モデル」と呼ばれるものがあるらしく、その考え方を巡って様々な議論があるようです

「しょうがいしゃ」を表す3つの表記

まずはそれぞれの漢字の意味を再確認しましょう。

「障」

  1. 間に立ちふさがってじゃまになる、じゃまをする。ふさぐ。へだてる。さまたげをする。
    「障壁・障碍(しょうがい)(しょうげ)・障害・罪障・五障・故障・万障」
  2. 防ぎ、また隔てにするもの。つつみ・あぜ・とりで・ついたて等。 「堡障(ほうしょう)・辺障・障子」

 

「害」

  1. 《名・造》傷つける。そこなう。悪い状態にする。
    「害がある」
  2. わざわい。(その)人に直接の原因が無い不幸な事件。 「凶害・災害・惨害・冷害・干害・風水害」

 

「碍」

 邪魔をする。妨げる。

 「障碍・無碍(むげ)・妨碍・碍子」

 

Googleでそれぞれの言葉を検索すると、「障害」は4.35億件、「障碍」は1.95億件、「障がい」は8400万件でした。Google trendによると、「障がい」が一番増えてきており、「障碍」の増加率は2番目、「障害」は横ばいでした。

 

どの言葉が適切なのか、に関して人々の意見が割れているようです。2010年の内閣府のレポート『「障害」の表記に関する検討結果について』 でわかったことを要約してお伝えしたいと思います。どの言葉が「社会モデル」に感じられるか、どの言葉が「医学モデル」の印象を避けられるのか、についてそれぞれの意見が分かれているようです。

 

「社会モデル」と「医学モデル」って何?

・社会モデル

個人が社会で不利益を被る原因は、社会の障壁が原因だと考えます。従って、社会のバリアを取り払うことで、人々が豊かに生きられることを目指します。

・医学モデル

個人が社会で不利益を被る原因は、個人の身体の不具合が原因であると考えます。従って、体の不具合を治療して改善することで、人々が豊かに生きられることを目指します。

 

「障害」の語源

「障害」という言葉は江戸時代末期から使われるようになりました。元々は「障碍(しょうげ)」という仏教語で、「物事の発生、持続を妨げること」という意味でした。平安時代末期から「悪魔が邪魔すること、障害」の意味になり、明治時代から障碍を「しょうげ」と「しょうがい」の二つの読み方が生まれ、それらを区別するために「しょうげ」を「障碍」とし、「しょうがい」を「障害」と表記するようになりました。戦後に、政府が「障害」を採用したため、「障碍」は使われなくなりました。ただし、戦前は「障害者」や「障碍者」よりも、差別的な言葉を使用する事が一般的でした。

 

内閣府はこの言葉の表記方法に関して意見を集めるために、企業、マスメディア、NPO、地方自治体などから広く議論に招いた様です。

1.「障害」

[肯定的意見]

(Japan National Assembly of Disabled Peoples’ International (DPI-Japan) )

『障害者の社会参加の制限や制約の原因が、個人の属性としての「Impairment」にあるのではなく、「Impairment」と社会との相互作用によって生じるものである。 

したがって、障害者自身は、「差し障り」や「害悪」をもたらす存在ではなく、社会にある多くの障害物や障壁こそが「障害者」をつくりだしてきた。このように社会に存在する障害物や障壁を改善又は解消することが必要である。』

 

[否定的意見]

(障害者団体:東京青い芝の会)

『「害」は「公害」、「害悪」、「害虫」、「殺害」の「害」であり、当事者の存在を害

であるとする社会の価値観を助長してきた。』

 

言葉に対する人々の考え方がが変わるべきであり、言葉自体を変更するべきではないという考えと、言葉自体が人々の障がいに対する悪いイメージに貢献しているという考えが対立しています。

2.「障碍」

[肯定的意見]

(障害者団体:東京青い芝の会)

『「碍」は電流を遮断する「碍子」などで用いられているように、「カベ」を意味する言葉である。社会が「カベ」を形成していること、当事者自らの中にも「カベ」に立ち向かうべき意識改革の課題があるとの観点を踏まえ、「碍」の字を使うよう提唱してきた。 中国、韓国、台湾など漢字圏において、「しょうがい」は「障碍」又は「障礙」と表記されている。

「障害」の表記は「医学モデル」であるのに対し、「障碍」の表記は「社会モデル」そのものではないか。』

 

[否定的意見]

(DPI-Japan)

『人に対して「害」を使うべきでは無いと言うが、「障碍」の表記は、仏教語に由来する「障碍(しょうげ)」の語源に関する問題もあるため、「害」の字を使う場合と同様又はそれ以上の問題の指摘を受ける可能性がある。 』

 

(マスメディア:朝日新聞)

『「碍」は、使用頻度が低く、国民に馴染みがない。国民が十分「碍」の字義を理解したうえで使用するなら問題はないと考えるが、「障害」を「障碍」と表記しても根本的な解決にはならない。漢字の字義に即した議論だけでなく、それとは別の、感覚的・感情的なものも含めた上での考慮もしなければならない。』

 

「碍」の字義こそ「社会モデル」だという考え方もありますが、障碍にも悪い語源はあるし、そもそも一般国民にとってあまり意味が伝わらないという問題もある様です。

3.「障がい」

[肯定的意見]

(地方公共団体:岩手県) 

『県としては、「害」の負のイメージにより、不快感を覚える者がいるのであれば、改められる部分から改めるべきと考え、平成 20 年 4 月から行政文書等における「障害」の表記を「障がい」に変更することとした。』

 

(企業:ソニー株式会社) 

『「害」の字が、他人に害を与えるなど負のイメージがあった。地方公共団体や民間企業の取組、各種団体の意見等を参考にして表記を「障がい」に変更した。ただし、今後、適切な表現が現れれば適宜変更を行う。』

 

[否定的意見]

(障害者団体:東京青い芝の会)

『表意文字である漢字を、ひらがなに置き換えてしまうと、「社会がカベを作っている」、「カベに立ち向かう」という意味合いが出ない。』

 

(障害者団体:特定非営利活動法人DPI日本会議)

『人に対して「害」の字を使用することは不適切であるとして、「障害」の表記を「障がい」に変更する考え方は、障害者の社会参加の制限や制約の原因が、個人の属性としての機能障害にあるとする個人モデル(医学モデル)に基づく。』

 

結論

内閣府による調査でいろいろなことがわかりました。

 

誰もがハッピーになる結論は見つからないようですね。しかし、障がいには「医学モデル」と「社会モデル」が存在し、「社会モデル」に適する単語を探している、という点に関しては皆さん共通する様です。

 

確かに、今でも「医学モデル」を通して障がいを理解している人は多いかもしれません。「社会モデル」での理解が広まれば、社会にあるバリアを取り払い、実際の行動に移す人が増えるかもしれません。もし、この表記に関する議論が実際の社会のあり方にも影響するのであれば、この議論に価値があると思います。たかが言葉、されど言葉。

 

政府がどんな言葉を選んだとしても、新しい言葉が生まれたとしても、社会がもっと「社会モデル」を受け入れる様になり、バリアを壊さなければならないと感じる人が増えれば良いなと思っています。

 

筆者である私自身は、この言葉に関する調査を通して、言葉に関する知識が増えるとともに、あらゆる人々の障がいに対する考えや主張を知ることで新たな視座を得ることができ、とても勉強になりました。どの言葉を推す人の意見・気持ちも分かるような気がします。言葉の使い方についてみんなが考え、議論し、お互いの考えを知る、というだけでも最初の一歩としてとても意味があるのではないでしょうか。

Kenji Yanagawa
Accessibility Consultant and Business Manager in Japan | Kyoto
Business Manager for Equal Entry's operations in Japan and work to evangelize the company, establish new business partnerships, and create success.