This is the Japanese translation of the English blog post, “Virtual Reality User Study with Children and Seniors in a VR Experience.”
弊社(イコールエントリー)が行ったVRのユーザーテストについての記録です。今回、イコールエントリーはVRTogether(VRトゥギャザー)さんとアゼリーグループさんと協力し、VRを用いた世代間交流の効果について調査しました。VRのユーザーテスト方法そのもの、高齢者と子供のVR使用から得られた発見、VRのアクセシビリティ、などについて書きます。
弊社は、ウェブやアプリのアクセシビリティに関するコンサルティングサービスを提供しているアメリカの会社です。現在はVR・AR・XRのアクセシビリティについて調査をし、仮想空間を全ての人が参加できる様にする設計についての知見を蓄えています。
VRTogetherとは、高齢者施設で使用し、「孤独」を解消することを第一の目的として開発されている、VR上で人々が交流できる米国のゲームです。
アゼリーグループは、保育園やリハビリ施設、老人ホームなどを含む様々な施設を運営し、福祉・教育・医療を通して、あらゆる年齢の方々にサービスを提供しています。
現在、我々3社合同でのワーキンググループは、VRが、高齢者と子供の交流をどの様にして促進することができるのか、年齢や障害の有無にかかわらず全ての人が参加可能にするには何が必要かを知るべく、より本格的な調査をするための補助金を探しています。この記事は、その先駆け(パイロット版)として行った小規模の調査で得られた学びを皆さんと共有することを目的に執筆しております。
このパイロット版の調査の目的・ゴール
- VRTogetherがアゼリーを利用する高齢者と子供の間の交流を促進する上で、十分可能性があるものなのかを知る
- VRを用いたユーザーテストの方法を確立する
- 調査結果に関するこちらの記事を書き、A11yTokyoイベントで発表し、皆様と共有する
調査前に思っていたこと(仮説)
- 子供も高齢者もVRの操作方法に苦労する(ソフト・ハード両方)
- アクティビティがシンプル(景色を眺める等)なため、子供がすぐに飽きてしまう
- 高齢者はシンプルなアクティビティの方が楽しめる
- ヘッドセットは子供には大きすぎる
被験者
高齢者(アゼリーリハビリ倶楽部)
加齢や脳梗塞、認知症などの病気がもとで、身体的・精神的な機能が低下してしまい、行動範囲が狭くなってしまったり、自宅に閉じこもってしまったり、栄養状態が低下してしまったり、清潔が保てなくなってしまうなどの課題を抱えている。その高齢者の方々が、機能の維持・向上、個々の課題の解決のために、リハビリをしたり、食事をしたり、お風呂に入ったり、他のご利用者様とコミュニケーションを取るなどの目的で、アゼリーリハビリ倶楽部に通っています。
子ども(アゼリー保育園)
英語あそびやSTEAM教育、プログラミングなど、教育特化・自立支援を特長とした取り組みをしていて、体を動かしながら楽しく英語を学んだり、「なんでだろう?」と研究者のように自分で考えたり、そのこれからの未来で活躍できるような0~6才の江戸川区内のお子さんが、アゼリー保育園に通っています。
準備
以下の道具を揃えました
- Meta Quest 2 ヘッドセット
- ダイアルで調整可能なヘッドストラップ
- NECのアンドロイドタブレット
- 参加者の様子を覗く大型モニタ
ヘッドセットの調節
Quest2標準のストラップよりも、ダイアル式を強くお勧めします。こちらを利用することで、被験者に極力こちらの手が触れることのないように、脱着のお手伝いをさせていただくことができました。我々が使用したものと全く同じものは現在販売していない様ですが、メタ社公式「エリートストラップ」に加え、様々なメーカーが類似品を販売しています。
ガーディアンと距離センサーの解除
Questには安全のために距離センサーを使用しています。壁等の障害物が近づくと、VRの映像を止めてカメラ映像を流してユーザーに注意を促します。それに加えて、ガーディアンという歩き回れる範囲をプレイ前に設定し、その外に出たら同じく映像を停止し、カメラ映像に切り替わります。こうすることで、ユーザーが現実世界の物体と衝突して怪我をしたり、物を破損したりすることを防いでいます。
しかし、ユーザーテストにおいては、我々が常に周囲をチェックして、ぶつかりそうになったらユーザーを誘導します。また、我々が少し近づいただけで映像が止まると、円滑なテストに支障が出ます。従いまして、Meta Quest Developer Hubというアプリケーションを用いてガーディアンと距離センサーはオフにしました。そのアプリケーションをコンピューター上で起動し、USBケーブルでデバイスを繋ぐと、Device Managerから自分のデバイスの設定を変更することができます。Questを再起動すると、設定は元に戻ります。
アンケート
VR体験の前後それぞれでアンケートを行い、気持ちの変化を測定するものです。
本番ではより本格的なアンケートをして定量的な調査を盛り込む予定ですが、パイロット版ということでシンプルにしました。左がVRTogetherさんが普段調査時に使用されているアンケートで、右が今回使用した簡単バージョンです。基本的には数字をマークしてもらう質問で、最後に全体の感想をお聞きしてメモしました。
ゲームの種類・それぞれのアクティビティ
このゲームのユーザーは環境内で歩き回ることはありません。椅子に座った状態で、あたりを見回したり、1〜2個のボタンを用いて何らかのアクションをしたりします。全体の流れは以下の通りです
- 体験前アンケート
- テストの目的や所要時間の説明
- コントローラーの使い方など、体験前レクチャー
- VR体験
- 体験後アンケート
そして、以下のような環境で体験していただきました。
ビーチ
ビーチはユーザーがアルファベットのブロックを持ったり置いたり並べたりすることができる環境です。 ここでは以下の様な事を体験してもらいました
- コントローラーの操作に慣れる
- ブロックをトリガーボタンを使ってひろう
- 辺りを見回して、パートナーの存在を認識する
- 握手する
スイス上空の熱気球
熱気球のモードでは、360度動画が流れます。 熱気球に乗っている間、以下のアクティビティをやってもらいました
- 辺りを見回す
- 下にあるもの(電車など)を認識する
- ボタンを押して、仮想カメラで写真(景色&自撮り)をとる
森の中でのキャンプ
キャンピング場でのアクティビティ
- ミニゲーム: 空中に浮かぶ点を、書かれた数字の順番に繋ぐ
- 点を繋ぐとキャンプ道具が生成される。どれだけキャンプ道具を集めることができるか
発見したこと・気づき
1.コントローラーは難しい
高齢者の方は特にコントローラーの使い方に皆さんとても苦戦されていました。
- コントローラーの輪が腕を通すところに見える
- 「正面」の向きがコントローラーの形状からは分かりづらい(詳細は過去のブログ「11 Things We Learned from Blind Users」で紹介しております)
- コントローラーの概念が分かりづらい。空間内で仮想的にお互いに「握手」をしてもらう場面で、咄嗟にコントローラーを外して実際の手を使おうとした方がいた
-
ボタンが難しい
- VR空間内でボタンは見えない
- 「離す・押す・長押し」の使い分け
2.ヘッドセットは重い
ダイアルで調整できるストラップを使用してもなお、やはりヘッドセットをつける負担は大きい様でした。ヘッドセットがもっと軽くなることに期待です。そして子供には少し大きすぎました。
3.チュートリアルの重要性
コントローラーの持ち方に慣れたら、次は操作です。簡単に思える動作でも、説明するのは難しかったです。例えば、腕を伸ばしたり、ボタンを押したり、物を掴んだりするのも、VR空間では混乱してしまい、なかなか思うようにいかないようでした。あたりを見回すことができるとか、手を伸ばせばオブジェクトに届くとか、VR空間内で現実同様に動くことができるという感覚がなかなか掴みづらかったようです。
これからのVR製品では、全てチュートリアルを設けるべきだと感じました。今の所、無いゲームもあります。ゲームの開始時には必ずコントローラーの使い方や、VR内でのインタラクションを丁寧に説明する必要があると思います。RocketManというオープンソースのVR脱出ゲームを試したところ、大変丁寧なチュートリアルがあったので、皆さん参考にして欲しいです。操作に慣れている人はスキップできる様するのが良いと思います。
4.年齢によって操作に慣れるのにかかる時間が異なる
子供は先に操作に慣れてしまって楽しんでいる一方で、高齢者の方が操作を習得するのに時間がかかり、その間は二者の交流が全くないという時間が多々ありました。3とも関連して、チュートリアルを二人で協力してクリアしないといけないミニゲーム的にしてはどうかと思います。
相手の習熟が遅いことに苛立つ子供も出てくるかもしれませんが、寛容さを学んでもらう良い機会であるとも思います。実際に高齢者の方の感想では、「感想では、「数字を繋げるのが楽しかった。子供が先に見せてくれたのが良かった。」という方がおられました。開発者が分かりやすいチュートリアルを用意することが要になるでしょう。
5.お互いのアバターをみた瞬間に交流が生まれた!
今回は全員デフォルトの灰色のアバターでした。普段の姿では無く、アバターを通して交流することによって話しやすくなったかもしれません。初めてお互いのアバターをみた時にとても良い反応をいただけました。
6.体を動かすのが難しい
「腕を伸ばしてください」や「あたりを見回してください」など、現実の空間では普通の体の動きも、VR空間上では混乱し、中々体が動かないということがありました。チュートリアルには、体の動かし方も含めるべきだと思いました。例えば、「右をみてみましょう」「左の壁に触れてみましょう」など。開発者が簡単だと思うことでも、全ての人にとって簡単な訳では無い様です。
7.使用するボタンは少ない方が良い
プレイ中はどのボタンが何かを見ることは難しいですが、アクションボタンが一つしかなければ、操作に慣れるのが簡単になります。今回は使用ボタンは1~2だけでしたから、ボタン操作自体は比較的上手くできていたと思います。ブロックを拾う、カメラで撮影する、など。また、森林のキャンプ地で点を繋ぐゲームではボタン操作は一切不要でしたので、手・腕・体を動かすことに慣れさえすれば楽しんでもらえる様でした。
8.言語が不要のVRアプリケーションはとても良い
説明や文字、ルール等を読んだりすることがこの体験ではありませんでした。とっつきやすいです。簡素な体験では子供は飽きてしまうのでは無いかと心配しましたが、強いゲーム性が無くても、景色をみたり、物をつかんだり、写真をとったりするだけでも大変楽しんでいただきました。
VRTogetherからは、米国の老人ホームの方々との交流も試してみても良いかもしれない、との意見が出ました。
視覚的には分かりやすくて良かったですが、視覚障害者の方々など音声・文字による説明がオプションとして必要とされる方もおられると思うので、音声解説も大事だと思います。
ユーザーテストを行う上での学び
1.タブレットやモニター越しに観察するのは大事
VR空間内の様子をモニターを通して全員で見ることによって、何か困ったことがあったらすぐに助けることができました。また、録画することで後から見返して気づきを得ることもできます。
スタッフ側も同じ仮想空間に入れば良いのでは無いかとも思いましたが、外からみた方が効率が良さそうです。
2.WIFI接続台数の限界
ヘッドセットやタブレット、管理用のパソコン、空間内で撮影された写真の確認のためのスマホ等、初めはたくさんのデバイスをWiFiに繋いだため、接続障害が起きてしまいました。管理用のパソコンを最低限にしたりテザリンを活用するなどして調査を行いました。事前に何台のデバイスがどのネットワーク接続されている必要があるのかを確認することが大事でした。
まとめ・今後の展望
主に感じたのは、チュートリアルの重要性でした。18~60才の人のみならず、全ての人を考慮に入れた設計にすることが重要です。アゼリーさんによると、発達障害の子たちや、認知症の高齢者の方々にとっても、リアルよりも良い交流となる可能性もあり、調査してみても良いのではないかとのことでした。
イコールエントリーとしては、VRが全ての人が使えるものになって欲しいと思っております。今回の調査では、コントローラーなど操作に苦労された方々がよく「下手ですみません」というような趣旨のことを言っておられました。「ユーザーの操作が下手である」、とユーザーの責任にするのではなく、「開発者が全ての人にとって使いやすいものを作る義務がある」という文化が広まれば良いなと考えます。
これからも我々の活躍を見守っていただければ幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。